朝、出勤しようとすると体が動かない。会社のことを考えると涙が出る。夜眠れないまま朝が来る――こうした状態で「もう辞めるしかない」と思い詰めている方に、辞める前にどうしても知っておいてほしいことがあります。
それは、辞め方の順番しだいで、受け取れるお金の総額が数百万円単位で変わるという事実です。大げさに聞こえるかもしれませんが、誇張ではありません。
2つの制度は同時に使えない。だから「順番」がすべて
体調不良で退職する方に関係する給付は2つあります。健康保険の傷病手当金(働けない人のための給付。給与の約3分の2を最長1年6か月)と、雇用保険の失業保険(働ける人のための給付)。「働けない」と「働ける」は同時に成り立たないので、この2つは同時受給できません。
ではどうするか。先に傷病手当金、回復してから失業保険。このリレーが正解です。
月収30万円・45歳・勤続10年の方で試算すると、傷病手当金は月約20万円×最長18か月で約360万円。その後の失業保険が約53万〜159万円(離職区分による)。合計で最大500万円規模になります。もし先に失業保険から入ってしまうと、「働ける」と自己申告したことになり、傷病手当金の数百万円がまるごと受け取れなくなる恐れがある。順番を間違えるとはそういうことです。
退職前にやるべき4つのこと
① 退職前に、必ず受診する
退職後も傷病手当金を受け続けるための入口は、在職中に労務不能の状態が始まっていることです。具体的には、在職中に連続3日の休み(待期)が完成し、4日目以降も働けない状態があること。その裏付けになるのが受診記録です。「病院に行くほどでは」とためらう方が多いのですが、不眠も動悸も涙が止まらないのも、心療内科の立派な受診理由です。まず予約を。
② 健康保険の加入期間を数える
退職後の継続給付には、退職日までに継続して1年以上健康保険に加入していたことが必要です(転職の空白が1日以内なら通算可)。1年に満たない方は、退職日を少し先に延ばすだけで要件を満たせることがあります。辞める日を決める前に、ここを確認してください。
③ 退職日には出勤しない
意外な落とし穴がこれです。最終日くらい挨拶に……と退職日に出勤して働いてしまうと、「労務不能ではなかった」とされ、退職後の継続給付が受けられなくなる恐れがあります。挨拶や引き継ぎは退職日より前に済ませ、退職日当日は休む。これは徹底してください。
④ 失業保険は「受給期間延長」で凍結する
失業保険には離職翌日から1年という期限があります。傷病手当金を1年6か月受けていたら、その間に失業保険は期限切れです。そうならないよう、働けない状態が30日続いた時点で受給期間延長を申請し、失業保険の権利を最大4年まで凍結します。郵送でも代理でも申請できます。
回復後の失業保険には「上乗せ」の可能性
療養を終えて求職を始める段階では、2つの制度が味方になります。体調不良による退職は特定理由離職者として給付制限なしになる可能性が高い。さらに、療養中に精神障害者保健福祉手帳を取得した場合は就職困難者として給付日数が300日・360日になる道もあります。手帳の取得は主治医とよく相談すべきことですが、選択肢として知っておく価値はあります。
すでに退職してしまった方へ
「もう辞めてしまった。在職中に病院にも行っていない」という方も、諦めるのはまだ早いです。在職中の欠勤状況や症状の経過によっては、今からでも組めるルートが残っていることがあります。そして休職中でまだ在職している方は、今が一番打ち手の多いタイミングです。退職願を出す前に、一度ご相談ください。それだけで結果が変わることを、私はこの仕事で何度も見てきました。