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鈴木 一郎社会保険労務士・1級FP

「我慢して、我慢して、限界が来て自分から退職届を出しました。だから自己都合です」。

この台詞を、私は何百回と聞いてきました。そして、そのうちの少なくない割合の方が、実際には特定受給資格者(いわゆる会社都合扱い)に該当していました。追い詰められた末の退職は、制度上「自分の都合」とは限らないのです。

残業時間には明確な数値基準がある

長時間労働を理由とする認定には、はっきりした数字の基準があります。離職前6か月のうち――

このどれか1つに当てはまれば対象です。見落とされがちなポイントを2つ。まず、残業代が全額支払われていても関係ありません。問われているのは時間そのものです。次に、45時間基準は「3か月連続」なので、繁忙期が四半期続くような職場なら普通に到達します。月の残業45時間は、1日あたり2時間強。「うちはブラックじゃないから」と思っている方でも、手帳を見返すと該当していた、ということは珍しくないのです。

ハラスメントを理由とする場合

上司や同僚からの故意の排斥・嫌がらせ、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産にまつわる不利益な扱い。これらが退職の引き金なら、やはり特定受給資格者の対象になり得ます。

ハラスメント認定の難所は、出来事の性質上、密室で起こることです。だからこそ証拠の価値が高い。スマホの録音(相手に告げずに録ったものでも証拠として扱われ得ます)、暴言の残ったチャットやメール、社内相談窓口や労働組合への相談記録――「相談した」という事実そのものが記録になるのは覚えておいてください。心療内科の診断書は、被害と退職の因果関係を補強してくれます。

証拠は在職中にしか集められない

この記事でいちばん伝えたいのはここです。タイムカードのコピー、勤怠システムの画面、PCのログイン記録、入退館記録。これらは退職した瞬間にアクセスできなくなります

退職を決意したら、辞表を出す前に、スクリーンショットでもスマホの写真でも構わないので記録を確保する。給与明細に残業時間が印字されているなら6か月分を保管する。面談で退職を促されたら、日時と発言をその日のうちにメモする。この数日の作業が、後の数十万〜百万円を左右します。

申し立ての実際

流れはシンプルです。離職票-2の本人判断欄で会社側の記載に「異議あり」を選び、ハローワークの窓口で事情と証拠を提出する。あとはハローワークが会社側に照会をかけ、双方の言い分と証拠を突き合わせて判定します。会社と直接対決する場面はありません。感情戦にせず、記録を淡々と積むのが最短ルートです。判定に不服があれば、雇用保険審査官への審査請求という次の手も用意されています。

なお、パワハラや過重労働で心身に不調が出ている方は、離職区分の前に考えるべきことがあります。まず療養と傷病手当金、それから失業保険。この順番の設計は「うつ・体調不良で退職するとき」の記事を読んでください。区分の話はそれからでも間に合います。

在職中の方からのご相談は、正直なところ一番ありがたいタイミングです。証拠の集め方から退職日の設定まで、打てる手が全部残っていますから。